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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)31号 判決

上告人(原告・被控訴人) 株式会社佐渡金融

右訴訟代理人弁護士 浦本貫一

被上告人(被告・控訴人) 北孝

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浦本貫一の上告理由第一点について。

論旨は、原審は本件債権譲渡の通知または承認に関し民法四六七条の解釈適用を誤り、また虚無の証拠を事実認定の資料に供し、理由不備の違法を犯したものであるという。しかし、原審は、その挙示の証拠により、上告会社が訴外北誠一外五名の被上告人に対する原判示債権譲渡を承認したことおよび被上告人の代理人たる訴外北光二と上告会社代表者木村祥裕との間に本件不動産について被上告人のため抵当権を設定することについて協議が成立していたことを認定しているのであり、右認定は、前記証拠関係に照らして、首肯するに十分である。

このように債権譲渡について債務者の承諾がなされた以上、債権譲渡通知の手続にかしがあったとしても、債権譲受人は右債権譲受をもって債務者に対抗しうることは明らかである。したがって、原判決には所論の違法を認めえないから、論旨は採用できない。

同第二点について。〈省略〉

同第三点について。〈省略〉

同第四点について。〈省略〉

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

上告代理人浦本貫一の上告理由

一、原判決理由説示(二)において〈省略〉

しかしながら、原判決は被上告人が訴外北誠一、北ナカ、北正雄、北竹治、北光二、北孝二等の上告人会社に対する債権額金計金壱百弐拾万円を昭和三五年八月二十七日譲り受けたと説示しているのであるが、債権の譲渡については本件が指名債権である以上民法第四六七条第一項の規定によって債権の譲渡人がこれを債務者に通知しなければ債務者に対抗することができないのである。

しかるに原判決は「昭和三五年八月二七日頃訴外人は控訴人名義をもって被控訴会社宛に右債権譲渡の通知をし、」と説示しいかにも訴外人前記北誠一、北ナカ、北正雄、北竹治、北光二、北孝二、等の代理人として控訴人である被上告人北孝が債権譲渡の通知をなしたかに見えるのであるがこれ等訴外人六名より債権譲渡の通知を受けとった事実もなく何等証拠も提出されてないのである、また「訴外人北光二と被控訴会社(上告人)との間に金百四十万円について本件不動産に抵当権を設定することにし、訴外人は前記(1) 、(3) 乃至(7) の各債権について控訴人に債権譲渡の手続をして」と説示し、いかにも(1) 、(3) 乃至(7) の各債権譲渡につき上告人会社の承認を得たので債権譲渡につき新たに各債権者より譲渡の通知をなす必要もない。従って債権譲渡の通知がなくともこの債権譲渡は有効であるとの意にも解されるのであるが、この訴外人は北誠一、北ナカ、北正雄、北竹治、北孝二を指すものでなく北光二を指すものと思料されるが仮りに前記訴外人が北光二の近親者であったとしても多額の債権の譲渡という処分について北光二がこれ等訴外者に対する代理権があるとはいえない。また北光二がこれ等訴外者の代理人であるとの証拠もないのであるし北光二は上告会社の監査役であって原審が証拠とした甲第一号証の二の上告会社帳簿には依然として現在も訴外者北誠一等六名が上告会社債権者として記載されてあり監査役として若しこれ等訴外者と債権が昭和三五年中に譲渡されたとしたら監査の上譲渡債権につき帳簿の変更を命じなくてはならない。

また訴外者北誠一等六名から上告会社に北光二、若くは被上告人北孝に債権を譲渡したという一片の通知もなく本件第一審、第二審を通してこれ等訴外人が証人として出廷し証言したこともない、若し譲渡の手続が正確でない場合本件が継続中であっても改ためてこれ等債権者より上告会社に対し譲渡の通知をなしても有効な譲渡となることは既に判例の示すところであるにかかわらずこれ等の手続をもなしてないのである。

これ等を総合すると、訴外者北光二は上告会社との本件不動産上に抵当権の設定を仮装にすることの話し合いがあったことを奇貨として万一第三者から会社財産の殆んど全部である本件不動産に抵当権を設定した場合詐害行為等によって訴えられることを恐れ、たまたま上告会社の印鑑が手中にあるを幸に自分の子北孝名義に抵当権を設定したものと思料するのである。

従って原判決は債権譲渡の通知がなくまた債務者の承諾のない訴外者北誠一等六名の債権が、有効に譲渡されたと判示したことは民法第四六七条第一項の解釈をあやまった違法のものであり、違法でないとしても虚無の証拠を証拠とし結局判決に理由を附せなかったものである。〈以下省略〉

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